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「あなたはもう既に治療が必要な高血圧かもしれません!」

高血圧とはどういう病気ですか?

血圧とは、文字通り「血管内の圧」のことであり、高血圧とは収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上のどちらかもしくは両方を満たした状態のことを言います。本邦では、約4300万人の患者さんがいると推測されています。

高血圧はサイレントキラー(忍び寄る殺し屋)です。

高血圧(140/90 mmHg以上)は、日本人の三大死因のうちの二大疾患である脳卒中や心臓病など、生命に関わる病気を引き起こす最も主要な原因となっています。しかし、高血圧はサイレント・キラーと呼ばれるように、自覚症状がないために、現在、日本に約4,300万人と推定されている高血圧患者のうち実際に治療を受けているのはわずか2割の約860万人といわれています。高血圧に関しては、「自覚症状がなければ大丈夫」は通用しません。

世界保健機構(WHO)でも、高血圧は世界的に大きな問題として認識されています。2016年には、世界保健機構(WHO)とアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、合同で心血管疾患予防対策を作りましたが、その中でも高血圧は非常に重要なターゲットと定義されています。

血圧は130台だから大丈夫!ではありません。

2019年4月に日本高血圧学会より、改定された高血圧治療ガイドラインが発表されました。これにより、降圧目標値は130/80mmHg未満に変更になりました。上の血圧が130~140を示す場合は正常ではなく、「高値血圧」と定義し、生活習慣の是正や運動療法による管理が望ましいとしています(表1)。

表1 成人における血圧値の分類

成人における血圧値の分類

(日本高血圧学会ガイドライン 高血圧治療ガイドライン2019より改変)

SPRINT研究結果

なぜかというと、欧米の研究では、血圧130/80mmHg以上になると、正常血圧の方と比較して脳血管疾患の発症が多くなることがいくつも報告されているからです。アメリカでは、高血圧の基準を130/80mmHg以上と変更しています。本邦においては、高血圧の患者さんはもともと至適血圧に達成していない場合が多いと言われています。近年では、高血圧による動脈硬化が進行してしまう前に、従来よりも早期に介入し、将来の脳梗塞および心筋梗塞を予防しようという流れになっています(図1)。

図1 SPRINT研究結果

(SPRINT Reseach Group et al. N Engl J Med 2015; 373: 2103-2116 より改変)

2015年に発表されたSPRINT研究では、中央値3.26年の観察期間において厳格降圧群の方が有意に心血管イベント(心筋梗塞・急性冠症候群・脳卒中・心不全・心血管死)の発生が少なかったと報告しています。

高血圧の合併症について~左室肥大~

高血圧が動脈硬化を引き起こすことはよく知られていますが、心臓に関しては、高血圧が持続することで心臓の負担が増えて(後負荷が増大するといいます)、左室肥大をきたします。左室肥大とは、左室心筋内の心筋細胞が肥大することにより、左室の壁の厚みが増加した状態のことを言います。さらに高血圧が持続することで、肥大は徐々に進行します。

50歳以上で心血管疾患のない高血圧患者1,033例を前向きに平均3年間追跡したMAVI研究(2001年)によると、主要心血管イベント(心筋梗塞・突然死・心血管死・非心血管死を含むすべての死亡、重症心不全、透析を必要とする腎不全)の発生率は、左室肥大を有する群で有意に高かった(左室肥大群3.2% vs. 左室肥大なし群1.3%)と報告されています(図2)。また、もともと心筋細胞の異常があり、左室心筋が肥大している患者さんもいらっしゃいます。その場合は、肥大型心筋症と呼ばれる心筋症に分類されます。

高血圧患者における、左室心筋重量による予後の比較

図2 高血圧患者における、左室心筋重量による予後の比較

(Verdecchia et al. J Am Coll Cardiol 2001;38:1929-35より改変)

このように、左室肥大は高血圧を始めとした心負荷の表現型のうちの一つです。CVICでは、心臓MRIや心臓超音波検査(心臓エコー検査)を用いて左室心筋の壁厚や、心筋障害を検出することができます。それにより、同じ高血圧でも心臓への負担の程度を画像で確認することができます。

図3 当院における心臓MRI画像、正常と左室肥大の比較

​<正常例>

正常左室壁

​<左室肥大例>

肥大した左室壁

正常例においては、左室壁厚6mmと正常範囲ですが、右の左室肥大例では、左室壁厚14.7mmと著明な肥大を認めます。

高血圧の治療について

高血圧の治療の第一段階は、生活習慣の改善になります。特に、減塩と定期的な有酸素運動(1日30分程度のウォーキング、アクアサイズ、サイクリング、スロージョギングなど)の重要性が強調されています。出来ることから始めて行き、定期的な家庭血圧測定(理想的には1日2回朝と夜)で効果判定することが重要です。肥満の改善でも血圧低下効果が報告されています。毎日の体重測定も重要です。これら生活習慣改善でも血圧高値(140/90以上)の場合には、薬物治療の適応になります。

高血圧の治療薬は、血圧を低下させる薬のため、一般的に降圧剤と呼ばれます。様々な種類(作用機序:効きめ)をもつ薬があり、個々の患者さんの高血圧の状態や年齢などにより、薬を選択します。最近では、複数の薬を少量ずつ組み合わせて使用することも多く、それらを一つにまとめた配合剤も頻繁に使用されます。

また、高血圧の多く(約90%)は原因不明の本態性高血圧です。しかし、一部(約10%)の高血圧は、副腎からのホルモン過剰産生などが原因で起こる2次性高血圧と言われています。2次性高血圧の多くは、通常の採血でスクリーニング検査が可能です。

殆どの場合には、単独もしくは複数の降圧剤でコントロール可能です。しかし、一部のコントロール不良な患者さんは、治療抵抗性高血圧と呼ばれ、最近ではカテーテルによる腎デナベーション(除神経)治療が臨床治験されています。腎デナベーション治療とは、カテーテルを用いて腎動脈外膜に存在する交感神経を焼灼することで交感神経活動を抑制し、降圧を期待する治療法です。このように、様々な治療法で高血圧治療が行われており、それだけ高血圧が重要な問題と言えると思います。

高血圧の治療について
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