心臓専門の循環器内科
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「動脈硬化はなぜ悪いのか?」
~心血管疾患や脳卒中との関係~
血管の内腔は血管内皮細胞に覆われています。動脈硬化とは、高血圧などにより血管内皮細胞が障害され炎症が起き、血管壁の中にコレステロールがたまって、血管の内腔が狭くなった状態のことを指します。脂肪分に富んだ病変では、崩れて突然血管が詰まることがあり、心筋梗塞を起こしたり、脳梗塞を起こしたりします。
動脈硬化の原因はひとつではありません。高血圧、高脂血症、喫煙、糖尿病、肥満などが挙げられます。こうした原因を「動脈硬化の危険因子」と呼んでいます。
動脈硬化を評価する指標
動脈硬化は初期の段階では自覚症状はなく、どのくらい進行しているのかは分かりません。これを評価するための検査として、CVICでは心臓CTと頸動脈エコー検査を行うことができます。
心臓CT
動脈硬化のプラークは、初期にはコレステロールが主成分ですが、時間とともにカルシウムを主成分とする石灰に変化します。これを冠動脈石灰化と呼びます。動脈硬化の初期に見られることは少なく、比較的進行した場合に見られます。
冠動脈石灰化は、通常の胸部CT検査でも検出されます。しかし、正確な冠動脈石灰化スコアの測定には、心電図を同期させ、心臓に焦点を当てたCTの撮影が必要です。CVICでは、以下のように冠動脈石灰化を描出することができます。
<心臓CT検査を用いた冠動脈石灰化の画像>
冠動脈 3D画像
石灰化した部分は
白く光っています
石灰化した冠動脈
Youssef G. et al. Curr Cardiol Rep. 2013;15:325
石灰化スコアは、CT画面上白く光っている面積を計測して算出します。上記の画像において、最も左側の画像では、冠動脈に全く白く光っている箇所がなく、石灰化スコアが0であるのに対し、中央および右側の画像では、冠動脈の石灰化を認め、石灰化スコアも石灰化の程度に応じて上昇していることがわかります(CACS; coronary artery calcium score)。
<石灰化解析>
冠動脈の石灰化した部分を、石灰化スコアとして算出します。これが、高値であると冠動脈疾患のリスクが高いと判断します。
石灰化スコア(Agatston score)が高値である場合は、冠動脈疾患の発生リスクが高値です。例えば、上記石灰化スコアが400以上の場合には、90%以上の確率で、有意な冠動脈狭窄が存在することが示唆されます。当院では、このように各々の患者さんの石灰化スコアを提示し、ご本人に説明しています。
<冠動脈石灰化の臨床的意義>
石灰化スコアは、動脈硬化の非常に鋭敏なマーカーと考えられており、これまでの高血圧・糖尿病・高脂血症・喫煙・家族歴などの動脈硬化の危険因子よりも将来の心筋梗塞の予測に優れているとのデータが多く発表されています。そのため石灰化スコアは、心血管イベントの独立した予後予測因子として用いられています。アメリカ心臓病学会のガイドラインでは、症状のない患者さんであっても、冠動脈疾患中等度リスク群においては、冠動脈石灰化スコアを計測することを推奨しています(クラスⅡa)。
2015年に発表されたMESA研究の後ろ向き解析では、6722人の患者さんのうち、3.9年の中央観察期間中に、162人に心血管イベントが発生しました。本研究では、石灰化スコアが高い群ほど心血管イベントが多く、例えば石灰化スコアが300以上の群では、石灰化スコア0の群と比較して6.8倍心血管イベントが多かったと報告されています。
心血管イベントの発生率(%)
観察期間(年)
Detrano R et al. N Engl J Med 2008;358:1336-1345.
頸動脈エコー
超音波を用いて首の血管の断面を観察し、血管壁へのコレステロールの沈着(プラーク)の有無や形状(よりコレステロールに富んだ破綻しやすいプラーク)、血管壁の肥厚を観察することができます。頸動脈エコーは、身体への侵襲なく、直接動脈硬化の程度を観察することができる検査です。
頸動脈エコーを用いて観察できる項目は以下になります。
<IMT(内中膜厚)>
左右の総頸動脈、頸動脈洞、および内頸動脈など両側壁の観察可能な領域における最大の内中膜厚のことを言います。その他、平均のIMT値も計測します。
<プラーク>
内膜の肥厚が進行すると、動脈硬化のプラークが形成されます。注意すべきプラークとして、表面性状では潰瘍型・輝度では低輝度型、および可動性のあるプラークが挙げられます。
IMTの計測
頸動脈洞
総頸動脈
プラーク
<頸動脈エコー(IMT)の臨床的意義>
IMTは、プラークが出現する以前の早期動脈硬化症の定量的評価として重要であるといわれています。IMTは動脈硬化の原因となるリスク因子と関連を認めますが、特に年齢が大きく関与します。
平均IMT(mm)
日本人のIMT
Homma S et al. Stroke. 2001;32:830-5.
さらに、IMTは様々の動脈硬化の主要危険因子とは独立して、動脈硬化性疾患の発症と関連すると言われています。我が国のデータでは、1289名の60歳から74歳までの男性を前向きに追跡調査したものがあり、4.5年の経過観察を行ったところ、CCA(総頸動脈)最大IMTが最も大きい群(≥ 1.07mm)では、もっともIMTの小さい群(< 0.78mm)と比較して、3.5倍脳卒中の発症が多かったと報告されています。
観察期間(年)
平均IMT(mm)
最大CCA<0.78mm
最大CCA≥1.07mm
Kitamura A et al. Stroke. 2004;35:2788-94.